創造と調和を巡る物語
創造と調和を巡る物語
Shiga

Shiga
出会いは、まるで不思議な魔法のよう。
誰かとの出会いが一人では辿り着けなかった場所へと導いてくれる。
「Nava ナヴァ」と名付けたこの物語は、幾つかの本とひらめきをたよりに新たな時代の協働の地図を描く試みです。
この物語が語りかけるのは、一人一人の創造性を解き放つ協働の姿。
共に歩むことが創造の光を育み、やがて調和の光として私たちの星を美しい光で包んでゆく、そんな世界を想い描きました。
この物語は、HAS Magazineが構想する協働の指針「Nava」の世界観を描くために生まれました。
本編に加えて、こちらのページの手引書を併せてお読み頂けますと幸いです。
前編「虹色の記憶」では、遥かな銀河の彼方に浮かぶ、ある星に暮らす少年の物語を辿ってゆきます。
- text / photo HAS
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[ 序章 ]さざなみの記憶と滋賀の祈り
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[ 前編 ]水と祈りの記憶を辿る
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[ 中編 ] 2022.10.22公開予定遥かなる祈りへの旅路
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[ 後編 ] 2022.10.21公開予定途方もない祈りの言葉
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[ 最終編 ] 2022.10.29公開予定山水の記憶に導かれて
Creation
Shiga

力を持つものたち
すると透明の龍は、こう話し始めました。
「僕の考えは、とても簡単だよ。お父さんやお母さん、兄妹、家族みんなで力を合わせて一緒に働くんだ。家族の愛情と信頼をたよりにすれば、どんな問題だって乗り越えられるのさ。何よりお父さんとお母さんの力は偉大なんだ。ところで、君に家族はいるかい?」
ナヴァは、俯きながら答えました。
「はい、兄妹はいます。でもお父さんとお母さんは、少し前に病気で亡くなってしまいました。」
透明の龍は、羽で顔を隠しながら答えました。
「ごめんね。そうだったんだ。それは辛かっただろうな。でも、それなら僕が教えれることはないようだね。」
そう答えると、みるみる内に龍の色が神秘的な紫色に変わり、今度は紫色の龍がこう言いました。
「わらわの秘伝を教えてあげよう。土地に根付く古の信仰のもとで自然の摂理に従って、みなで働くのだ。難しいことは何もいらぬ。すべての答えは神に任せればよい。ところで、お主の土地には祭司はおるのか?」
ナヴァは、また俯きながら答えました。
「いいえ、いません。僕の村では、少し前に大人がみんな病気で亡くなってしまったのです。」
紫色の龍は、天を仰ぎながら答えました。
「なんということだ。神からの言葉を受け取る者がいないということか。それならば、わらわが伝えられることはないようだ。」
そう答えると、みるみる内に龍の色が燃えるような赤色に変わり、今度は赤色の龍がこう言いました。
「俺の力は、宇宙で一番の力だ。誰も俺にかなうものはいない。力こそがすべてだ。そうやって俺は多くのものを従えて来た。腕力でも、才能でも、なんでもいい。力を持ったやつが率いれば全てが早く上手くいく。ところで、お前は何か力を持っているか?」
ナヴァは、首をかしげながら答えました。
「分かりません。詩や絵を書いたりすることは大好きですが、まだまだ知らないことがいっぱいです。もし何か問題が起きた時はどうやって解決をするのですか?」
赤色の龍は、自慢げに語りました。
「俺の言うことに従わせるのみだ。なぜなら正解は俺だからだ。他の奴らには文句を言わせなければいい。そのためには圧倒的な力が必要だ。お前が望むなら力を授けてやるが、どうする?その代わり、反対する者がいればその力でねじ伏せることが条件だがな。」
ナヴァは、兄妹や村の仲間たちの顔が心に浮かびました。
彼らのことを想うと、とても力でねじ伏せることなど出来ないと思いました。
「ありがとうございます。でも、そんな力は僕には必要と思えません。もっと穏やかな方法が僕には合っているように感じます。」
赤色の龍は、目を真っ赤に燃えがらせながら答えました。
「この意気地なしが!力を使う勇気のないものには教えられることなどない。」

様々な効率化
そう答えると、みるみる内に透き通った琥珀色に変わり、今度は琥珀色の龍がこう言いました。
「余は、宇宙で最も権力のある地位に立つものである。宇宙の三角形の頂点にいるのだ。余とこうして話が出来るものなど、数少ないのだぞ。ありがたく思え。余の下には、幾つもの階層があり、余の指示に従って多くのものが動くのだ。そちは何か地位を持っているのか?」
ナヴァは、またも首をかしげながら答えました。
「いいえ、持っていません。僕の村は子供ばかりで、地位も階層もありません。」
琥珀色の龍は、威厳を持った口調で語りました。
「それならば、そちたちに何か地位を与えてやっても良いが、どうする?地位に応じて階層を振り分けるのだ。ただ一度決めた地位は変えることが出来ない。地位は人の心を支配する力を持つ。下のものは上のものに従うようになる。そちが一番上に立ち、無知な者たちを導くのだ。」
ナヴァは、兄妹や村の仲間たちが様々な才能を持っていることを知っていました。そこに差があるようにも思えませんでした。
そんな彼らのことを想うと、自分が上に立って導くという実感は湧きませんでした。
「ありがとうございます。でも、そんな地位は僕には必要と思えません。もっと平等な関わり方が僕には合っているように感じます。」
琥珀色の龍は、冷ややかな表情を浮かべながら答えました。
「余からの提案を断るとは、なんというものか。立場をわきまえて物を申されよ。」
そう答えると、みるみる鮮やかな山吹色に変わり、今度は山吹色の龍がこう言いました。
「私は、宇宙で最も効率的な仕組みを知るものだ。宇宙のすべては数字で説明出来る。数字による結果を出せる者が上に立ち、その他の者を指導するのだ。どんな者でも上に立てるチャンスがある。何せ数字と結果がすべてだ。君は、どれほどの稼ぎが欲しいんだ?」
ナヴァは、またも首をかしげながら答えました。
「分かりません。みんなが安心して暮らせるようになって欲しいと思いますが、その為にどれほどの稼ぎが必要かは見当もつきません。」
山吹色の龍は、理性的な声色で語りました。
「そうか。それなら出来るだけ、たくさん稼げばよい。
実力を付けて結果を出せば、どれだけでも稼げる。望むものは、何でも手に入るぞ。大きい家や車、空飛ぶ乗り物…形あるものは大抵手に入れられる。
ただ全員を豊かには出来ない。誰かが大きく稼げば、他の誰かの稼ぎが少なくなる。まぁ仕方がないだろう。その者の努力不足なんだからな。
もし君が望むなら、君の土地を担保に最初の資金を渡しても良いが、どうする?
ただ数字に関係しない文化や芸術を二の次にして努力することが条件だ。」
ナヴァは、兄妹や村の仲間たちが大切にしているものを良く知っていました。
それは古ぼけた時計だったり、自分だけの秘密の場所だったり、歌を作ることだったり、何かと交換出来そうなものはありませんでした。
それに大好きな詩や絵を描く時間がなくなってしまうことを考えると、まるで自分が自分でなくなってしまいそうで、とても怖く感じました。
「ありがとうございます。でも、僕たちの欲しいものは、どれだけ稼ぎがあっても手に入りそうにもありません。もっと目に見えないものを大切に出来る方法が合っているように感じます。」
山吹色の龍は、凍り付いたような声で答えました。
「稼ぎで交換出来ぬものなど何もない。せっかくの機会を逃してしまったようだな。交渉不成立だ。」

階層から権限委譲へ
そう答えると、みるみる瑞々しい緑色に変わり、今度は緑色の龍がこう言いました。
「私は、宇宙で一番謙虚なものです。自分自身の意見を押し通すのではなく、何よりもみんなの合意を大切にしています。上に立つ者は、力を貸してくれるみんなに奉仕するという志を持たなければなりません。数字よりも仲間意識や文化が大切です。あなたには、大切にしている仲間はいますか?」
ナヴァは、これまでとは違う言葉に少し驚きつつ答えました。
「はい、そんな仲間がいます。とても素晴らしい考え方だと思いました。でも、最近は仲間同士で喧嘩が絶えないのです。どうすれば納得いく答えを出せるのでしょうか?」
緑色の龍は、慎み深い態度で語りました。
「そうですか。それならば、まずは一人一人の意見にしっかりと耳を貸して下さい。その上で、それぞれの意見について多数決をします。その中で、一番賛成が多かった意見を採用するのです。それでも反対の声が大きければ、時間をかけて対話をしましょう。どれだけ時間がかかっても、お互いに納得出来るまで向き合えば、どんな問題でも解決します。もしよろしければ、私たちの方法を詳しくお教えしましょうか?」
ナヴァの暮らす村には、100人を越える子供たちがいました。
一人一人が異なる考え方を持っています。
いつも喧嘩になるのは、それぞれの考え方の違いが原因でした。
「ありがとうございます。でも、僕たちは本当に様々な考え方を持っていて、その方法だといつまでも経っても元通りの暮らしには戻れないような気がします。」
緑色の龍は、残念そうな顔を浮かべながら答えました。
「分かりました。残念です。どうか力の扱いにはお気をつけ下さい。力が誰かに集まると歯止めがきかなくなりますので。」
そう答えると、みるみる澄み切った空色に変わり、今度は空色の龍がこう言いました。
「私は、宇宙のすべてを信頼するものです。私は平等にみんなを信頼しています。誰もが自らの意思で判断し、決定する力を持っていると考えています。心からの信頼こそが本来の力を発揮する力になるのです。ところで、あなたには信頼出来る仲間がいますか?」
ナヴァは、またこれまでとは違う言葉に少し驚きつつ答えました。
「はい。信頼出来る仲間たちがいます。とても素晴らしい考え方だと思いました。でも、少し不安も感じました。一人一人がばらばらの決定をしてしまうと、まとまりがなくなってしまうのではないでしょうか?」
空色の龍は、落ち着いた眼差しで答えました。
「心配いりません。みんなが目指す共通の目的を定めた上で、何かを決める時には、必ず誰かに助言を貰うというルールを設けるのです。
しかし、その助言は、その人の判断を変える力は持ちません。
その助言を丁寧に心で受け止め、それでも自らの判断が正しいと思えば、責任を持って行動します。つまり全員がリーダーとして行動するということです。
ただ誰もが同じように判断出来るように、情報はすべて透明化します。
大切なのは、他者の意見に耳を傾けた上で、一人一人が責任を持って判断すること。本来、行動に失敗も成功もありません。責任を持った判断が失敗を成功に繋げる力になるのです。
共通の目的と助言が重要なポイントになります。
ところで、あなた達は何か共通の目的を持っていますか?」
ナヴァは、俯きながら答えました。
「僕の村では、大人がみんな病気で亡くなってしまいました。一刻も早く元通りの暮らしを取り戻したいと思っています。それが共通の目的かもしれません。
でも、そのためには、野菜作りから、食事の準備、道具作り、学校や病院の運営など、たくさんのことを同時に進めていかないといけません。
共通の目的の中に、いっぱいの目的があって整理するのがとても大変なのです。
ぜひその方法を活かしたいのですが、どうすれば良いでしょうか?」
空色の龍は、少し考えた後、こう答えました。
「そうですが。それは本当に大変な状況ですね。それなら、私の考え方をもう一歩深めた考え方が良いかもしれません。」

ソース原理
そう答えると、みるみる夜空の星々を集めたような星色に変わり、今度は星色の龍がこう言いました。
「私は、宇宙の創造性を信じるものです。私はあらゆるものが創造の源・ソースを持っていると考えています。それは、直感やひらめき、アイデアといった言葉に置き換えても良いかもしれません。その人がその人らしく、もっとも力が発揮出来るのは、そんな感覚を頼りに行動した時だと考えています。あなたは、どんなソースを持っていますか?」
ナヴァは、わくわくした気持ちで自分の好きなことを思い浮かべ答えました。
「絵を描くこと、詩を書くことが大好きです。ずっと考えているアイデアもたくさん心の中にあります。その他にも、やりたいことはいっぱいあります。ソースとは、そんな風に何かを表現するきっかけになるものでしょうか?」
星色の龍は、穏やかな声で答えました。
「いいえ、それだけではありません。絵を描いたり、音楽を作るといった表現はもちろん、コミュニティーを作ること、旅に出ることや料理を作ることなど、ジャンルや物事の大きさとは関係ありません。ですが、ひらめきで終わらせるのではなく、その感覚を信じ、自分の意志で一歩を踏み出していることが大切な条件です。」
ナヴァは、興味深そうに頷きながら、次の質問を投げかけました。
「分かりました。ありがとうございます。でも、そのソースを使ってどうやって力を合わせれば良いのでしょうか?」
星色の龍は、穏やかな笑みを浮かべながら答えました。
「そうですね。まずは一人一人がソースの実現に向けて一歩を踏み出すことが必要です。それはつまり、内に秘めたソースを外に発信するということです。
すると、そのソースが魅力的なものであれば、共鳴し仲間が集まってくるでしょう。そして、それぞれのソースを抱いた人を中心に、様々な物事を決めていくのです。集団ではなく、あくまで個人の創造性を中心に力を合わせるのです。」
ナヴァは、少し不安な気持ちになりました。
その方法だと、誰かが力任せに、他の誰かを傷つけてしまうのではないかと思いました。すると、星色の龍はナヴァの心を察したかのように話を続けました。
「この方法は、誰か一人に力を集めることで、力による一方的な支配に繋がってしまうと思われるかもしれません。
ですが、この方法の前提には、空色の龍が話してくれた信頼があります。
つまり、誰もが主体的に決定する力を持っているということです。
そのためソースを担う人物は、トップに立ち、自らの指示を強制する存在ではありません。自らの心に宿ったソースを守る守護者であり、多様な関わりの中でソースを育む母のような存在です。
ソースの世界観に基づき、共鳴する一人一人が主体的に決定し、ソースを担う人物は、ソースの世界観とのずれを感じた時に、必要に応じて調整する権限を持っています。その判断もまた多数決に寄らない判断となります。
多数決は、往々にして独創的な表現を抑えてしまいます。
力を集中させるのではなく、役割を明確にし、全員が力を持つことで、一人一人の創造性を損なうことなく、解き放つことが出来るのです。」

ソースの詳細
ナヴァは、落ち着いた気持ちを取り戻し、心に浮かんだ疑問を投げかけました。
「ありがとうございます。少しづつ分かって来たような気がします。でも、まだ少し疑問があります。僕の村では、やらなければならないことが沢山あります。
そのままだと、いくつものソースが同時に動き出した時に、それぞれがばらばらになってしまうような気がします。全体のまとまりを持つことは出来るのでしょうか?」
星色の龍は、ナヴァの目を見つめながら答えました。
「ソースは、それぞれがばらばらに存在しているのではなく、様々なソースが繋がり合いながら存在しています。
例えば、カフェを仲間と運営するとして、まず最初にどんなカフェにするか?という全体のイメージがありますね。
モダンな雰囲気なのか、可愛い雰囲気なのかなど。
今度は、そのイメージの中で、どんな飲み物を出すか?どんな食事を出すか?どんな家具を選ぶか?などを決めますね。
そこから飲みの物で珈琲を出すなら、どんな豆を使うか?どうやって豆を挽くか?を決めますね。そうやって、全体の大きなイメージの中に様々な要素が積み重なって、ひとつの世界観が作られてゆきます。
そのひとつひとつの要素をソースに置き換えてみて下さい。
そうすると大きなソースの中に幾つものソースがあり、またその中にソースがあるという幾つもの円が繋がり合うような関係になっていることが分かります。」

星色の龍は、少し深呼吸をした後、話を続けました。
「一人一人がそうした全体の繋がりを意識しながら様々な決定をするのです。
その上で、どうしても全体の世界観とずれてしまう決定については、ソースを担う人物が責任を持って調整をします。
そうすることで全体としてまとまりを持ちながらも、部分部分ではまるで生き物のように変化する有機的なチームを作ることが出来ます。
ただあなたの場合は、お店ではなく、村という共有の土地が外側の一番大きなソースとなるので、魅力ある古都のイメージを参考にすると良いかもしれません。
そうした都市の景観には、ある一定の規則があります。
壁の色や素材、建物の高さなど。それは全体の世界観を定める一番大きなソースとして置き換えられます。
しかし、それ以外については、特に大きな制約はありません。
住民はその空間の中で、様々な建物を作ったり、仕事を生み出したり、それぞれの選択をしていますよね。
その選択は、大きなソースの中にある、様々なソースとして置き換えられます。」
星色の龍は、もう一度ナヴァの目を見つめた後、話しました。
「そんな風に都市を育ててゆくと、歴史や伝統と現代性が混ざり合う、とても魅力的な都市になります。
多くの人を惹きつける都市は、実はこうしたソースの法則に基づいてるのです。
ただ村の全体のイメージについては、緑色の龍が話したように多数決で時間をかけて決める方法を取り入れた方が良いかもしれません。
公共の空間には、必要に応じて多数決を取り入れ、その他については、ソースの法則を取り入れてみると良いかもしれませんね。」
ナヴァは、ひとしきり話を聞き終えると、少し心が軽くなったような気がしました。すると、星色の龍はそんな彼の表情を見つめながら、穏やかな笑みを湛えて語りました。
「だいぶ晴れやかな表情になりましたね。安心しました。
それでは最後に大切なお話をさせて下さい。お伝えした方法の真の力を引き出すためには、ソース(創造の源)についての理解を深めることが大切です。
ソースは、どうやって生まれ、育まれ、繋がってゆくのかを。
その理解が一人一人の創造の光をより大きく解き放つ力になるのです。」
すると、目の前の龍が光り輝くような白色に変わり、今度は白色の龍がナヴァの前に現れました。
- text / photo HAS
Reference :
-
「ナルシス」
- 著者:
- ジャン=ルイ・ガイユマン
- 監修:
- 千足伸行
-
text / photo :HAS
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[ 序章 ]さざなみの記憶と滋賀の祈り
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[ 前編 ]水と祈りの記憶を辿る
-
[ 中編 ] 2022.10.22公開予定遥かなる祈りへの旅路
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[ 後編 ] 2022.10.21公開予定途方もない祈りの言葉
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[ 最終編 ] 2022.10.29公開予定山水の記憶に導かれて