[ 寺院 ]
遥かなる旅路が宿る
奈良・唐招提寺
Visit the Land of Eternity
奈良・唐招提寺
遥かなる旅路が宿る寺院
今回ご紹介するのは、海の京都とも言われる京都府北部の丹後半島の根元に位置する「大内峠一字観公園」。
この場所では、宮城の「松島」・広島の「宮島」とともに、日本三景の一つとして数えられる「天橋立」を静に味わうことが出来る。
弧を描くように伸びる砂州と生い茂る松林が独自の美しい景観を描き出す「天橋立」は、数千年もの時をかけ育まれたと言われている。
そんな豊かな自然に包まれた、この場所で出会った旅の記憶を紐解いてゆきたい。
多くの歌人に愛された地
この地から望む天橋立は、まるで天まで続く橋のように松並木が横一文字に見えることから、一字観公園と名付けられた。
その美しい風景は、古の時代から数多くの人々を惹きつけ、様々な歌人がこの地を訪れたという。
昭和5年5月のある日、一人の歌人がこの地を訪れている。
その歌人の名は、与謝野晶子。
「情熱の歌人」とも言われ、燃えるような恋の想いを歌った「みだれ髪」。
そして、反戦の想いを綴った「君死にたまふことなかれ」といった代表作を残しながら、女性の社会的地位の向上を目指し、自由に生きる女性の代表として生きた歌人・与謝野晶子。
残されたひとつの歌
夫の鉄幹と共にこの地を訪れた与謝野晶子は、ひとつの歌をこの地に残している。
「海山の 青きが中に 螺鈿(らでん)おく 峠の裾の 岩瀧の町 」
空の青さに海も山も溶け込み、景色が青一色となる黄昏どきに、この場所から町を見下ろすと、岩滝の町並みがまるで螺鈿細工のように輝きながら、海と山の青と美しく響き合っている、と。
この地の美しい風景に心を打たれ、その風景を想い、紡がれた歌である。
螺鈿のような美しさを
螺鈿(らでん)細工とは、アワビなどの貝がらの輝いた部分を薄くし、木地や漆地に貼り付け、美しい輝きを装飾する技法のこと。
その起源は明らかではないが、紀元前3500年の古代エジプトの装身具にその装飾が残っていると言われ、日本には1300年ほど前に中国大陸から伝えられた。
その技法は正倉院の宝物にも使われ、遥か昔から人々の暮らしを美しく彩って来た。
与謝野晶子がこの地の美しさと重ね合わせた、その「螺鈿」という言葉が表すように、数千年もの時が育んだこの場所の風景には、時を越え変わることなく人々の心と響き合う美しさが、今もなお流れ続けている。
- text/photo STUDIO HAS
- photographer Taishi Yokogawa
Information :
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京都府庁旧本館
address : 京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町
Reference :
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「松室重光と古社寺保存(日本建築学会計画系論文集 第613号)」
- 著者:
- 清水重敦
- 出版:
- 日本建築学会
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「桜のいのち庭のこころ 」
- 著者:
- 佐野藤右衛門
- 聞き書き:
- 塩野米松
- 出版:
- ちくま文庫
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text/photo :HAS Magazineは、旅と出会いを重ねながら、それぞれの光に出会う、ライフストーリーマガジン。 世界中の美しい物語を届けてゆくことで、一人一人の旅路を灯してゆくことを目指し、始まりました。About : www.has-mag.jp/about
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