創造と調和を巡る物語
創造と調和を巡る物語
Shiga
Shiga
この物語が語りかけるのは、一人一人の創造性を解き放つ協働の姿。
共に歩むことが創造の光を育み、やがて調和の光として私たちの星を美しい光で包んでゆく、そんな物語を想い描きました。
物語の舞台は、遥かな銀河の彼方に浮かぶ、ある美しい星。
前編「虹色の記憶」では、その星に暮らす少年が出会う様々な出来事を辿りながら創造と調和を巡る旅への扉を開いてゆきます。
◼︎ 読者の皆さまへ
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この物語は、HAS Magazineが構想する協働の指針「Nava」の世界観を伝えるために生まれました。
協働の旅の栞「Nava 青の書」を併せてお読み頂くことで、物語の世界が現実の世界へと繋がってゆく、そんな物語の在り方を指針としています。
物語を読み終えた後、物語の途上でも構いません。
ぜひ併せてお読み頂けますと幸いです。
» 「Nava 青の書」はこちら
- text / photo HAS
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[ 序章 ]さざなみの記憶と滋賀の祈り -
[ 前編 ]水と祈りの記憶を辿る -
[ 中編 ] 2022.10.22公開予定遥かなる祈りへの旅路 -
[ 後編 ] 2022.10.21公開予定途方もない祈りの言葉 -
[ 最終編 ] 2022.10.29公開予定山水の記憶に導かれて
Rainbow
Shiga

青く美しい星の言葉
天の川銀河に浮かぶ、シュクラールという星にNava ナヴァという一人の少年がおりました。
彼は九人兄妹の末っ子で、銀色にたなびく髪とどこまでも透き通ったエメラルドグリーンの瞳が印象的な少年でした。
みんなが騒いでいる時も、どこか一人で遠くを見ているような物静かな少年でもありました。
彼の名前は、ある青く美しい星の言葉から付けられました。
幼い頃、父から言葉の意味を一度だけおしえてもらいましたが、その言葉の意味はすっかり忘れてしまいました。
その理由(わけ)は、彼の日々の暮らしの中にありました。
彼は、いつも好奇心の赴くままに一人でどこかに出掛けては、物思いに耽るのが大好きでした。
特にお気に入りだったのは、彼の住む村の近くにある草原。
そこには、人の背丈ほどの白銀に輝く草原が広がり、その隙間を縫うように色とりどりの不思議な形をした花々が散り散りに咲き乱れ、まるで虹色の絨毯のようでした。
草原に注ぐ小川の水は、彼の瞳のような淡いグリーンの色彩を湛え、柔らかな光が水面に溶かされ穏やかに輝いていました。
その草原の中で、詩を書いたり、絵を描いたり、静かな少年の心の中はいつも想像の世界であふれていて、そんなことを気に留める暇もなかったのです。

星おくりの儀式
そんな日々を過ごしていた彼のもとに、突然の悲しみが降りかかります。
愛する父と母が突然の病に倒れ、この世を去ってしまったのです。
それだけではありません。
彼の村では、原因不明の伝染病によって、たった数ヶ月の間に村中の大人が命を落としてしまいました。
残されたのは、子供ばかりでした。
しかし、ナヴァや彼の兄弟をはじめ、村の子供たちは、悲しみをぐっと堪え、亡くなった大人たちの葬儀をしました。
その村では、銀河の中心にあるバルジという光への信仰があり、死者は宇宙へと送り出す習わしになっていました。
白銀の草で編んだ棺に死者を乗せ、大気圏を越える瞬間に死者と共に棺が燃え、光を放つことで、その光はやがてバルジの光となり、子孫を守り続けると考えられていました。
その時は、何百もの棺が子供たちによって作られました。
南の空が薄らと滲む夜明けに、子供たちが見守る中、白銀の棺は空に向かって静かに昇ってゆきました。
空から降る淡い光に無数の白銀の棺が反射し、虹色の光を放ちました。
あまりの美しさに子供たちは、悲しさを忘れて見とれてしまいました。
そして、しばらくするとひとつひとつの棺は真っ赤な炎に包まれ、大気圏で燃え尽き、空に無数の光が降り注ぎました。
子供たちは、涙を流しながら空を見つめ続けていました。
眠ることも忘れて、いつまでも空を見つめていました。

古くて新しい本
それから月日が過ぎ、子供たちの悲しみは少しづつ時の流れが癒してゆきました。
一人また一人と前を向いて歩み始めました。
ナヴァもまた兄弟たちと一緒に、村のみんなと力を合わせて以前の暮らしを取り戻すために歩み始めました。
ですが、時が経つにつれて、少しづつ子供たちの間で意見の食い違いが起き始めました。
最初は、みんなで懸命に力を合わせていたのに、気が付けば毎日誰かが喧嘩をしていました。
力まかせに無理を言ってしまったり、誰かを言い負かしてしまったり、本当はちゃんと力を合わせたいのに一人一人の気持ちが噛み合わず、子供たちは途方に暮れてしまいました。
それでも助けてくれる大人たちは、村にはもう一人もいません。
それに隣の村も、その隣の隣の村も、まったく同じ伝染病が広がり、大人はみんないなくなってしまいました。
子供たちの力で何とかするしかなかったのです。
そんな大変な日々の中で、ナヴァの唯一の楽しみは、みんなが寝静まった夜に亡き父の書斎にある様々な本を読むことでした。
宇宙考古学者だった父の書斎には、膨大な星々の本が並んでいました。
何万光年先の見知らぬ星の物語に触れるたび、彼の心は好奇心に満たされ、その時間だけは苦しい日々を忘れられました。
毎日毎日、彼の背丈の何倍もあるような本棚から本を取り出しては、夢中になって本を読み、そのまま眠ってしまうような日々を過ごしました。
ある日、いつものように本棚から本を取り出そうとすると、やけに古ぼけた本が一冊彼の足元に落ちて来ました。
その本の表紙には、美しい筆記体で「Nava ナヴァ」と書かれていました。
なぜか自分自身と同じ名前が記された本に、彼は驚きのあまり、急いで表紙をめくりました。
するとそこには、「光と調和の協働のために」という見出しと共に、こう書かれていました。

この本は、人と人との創造に満ちた協働の可能性を開くために作られました。
草案が書かれたのは西暦2025年のこと。
その後、何度も改訂を重ね、50年後の2075年に、ようやく一冊の本として出版することが出来ました。
当初は、あまりに理想主義的な内容だと多くの批判を受けましたが、彼らは諦めずに歩み続けました。
その後、幾つもの時代を越えてゆく中で、この本の語る内容が少しづつ人々の中に広がり、今では協働の指針となる古典の一冊として大切に読み継がれています。
かつては、私たちの星は争いの絶えない歴史を繰り返していました。
その要因のひとつが歪な協働の関係性の中にあったことを、私たちは歴史を通して学びました。
今回は、草案が発表されてちょうど300年を記念して、改めてこの本の草案を改めて皆さまにお届けしたく出版いたしました。
本のタイトルである「Nava ナヴァ」とは、私たちの星の古い言葉、サンスクリット語から名付けられた名前です。
その言葉は、数字の「9」という意味と共に「新しい」という意味を持っています。
数字は1から9に至り、また1に戻って循環するという性質があることから、「ものごとが一巡して新しくなる」という意味が付けられたと言われています。
そんな本のタイトルにちなみ、改めて原点に立ち戻り初心を見つめることが新たな気付きに繋がるのではないかと考えました。
草案ということもあり、不完全な点もありますが、著者のひらめきや情熱に直接触れることが出来るとも思っています。
この本が皆さまの創造の光を解き放ち、調和へと導くさらなるきっかけとなることを願っています。
2325年7月 ターラ・エニフ

そして、その文章の下には、今にも消えかけそうな走り書きの不思議な言葉が添えられていました。
ナヴァは、一生懸命に読もうとするあまり、気が付けばその言葉を何度も口に出して読んでいました。
「ॐ मेर्दिर नव स्वाहा(オーム・メルディール・ナヴァ・スヴァーハー)、ॐ मेर्दिर नव स्वाहा(オーム・メルディール・ナヴァ・スヴァーハー)、ॐ मेर्दिर नव स्वाहा(オーム・メルディール・ナヴァ・スヴァーハー)….」
すると、なんとその本が虹色の光を放ち始めたのです。
そして、その光に包まれたかと思うと、ナヴァの目の前には見たことのない大きな生き物が立っていました。
その生き物は、彼の背丈の何十倍もあるような大きさで、虹色の鱗に包まれ、口からは焼けるような炎を吐き、鳥のような翼を持っていました。

虹色の龍
「我が名はメルディール。遥か古の時代より青き星を守りし龍である。私を呼んだのはそなたか。」
幾つもの声が重なり合ったような不思議な声色を響かせながら、ナヴァに話しかけました。
それはまるで宇宙の彼方から聞こえてくるような不思議な声でした。
「分かりません。父の書斎にあった本に書かれていた言葉を読んだのです。」
「そうか。そなたの名前は何というのだ。」
「ナヴァ…ナヴァ・エニフと言います。シュクラールという星の小さな村で暮らしています。」
すると、その龍は目を細めながら、微かな笑みをたたえながら話し始めました。
「その瞳どこかで見覚えがあると思ったが、そなたエニフ族の末裔か。かつて、私のもとに毎日のように訪ねて来ておったものがいた。遥か彼方の宇宙への憧れを抱いていた。ある日を境にすっかり姿が見えなくなったが、よもやその子孫にこうして会えるとは。」

ナヴァが驚きながら固まっていると、その龍は続けてこう話しました。
「これも何かの縁だろう。私は宇宙の叡智を知る者だ。そなたが望めば、ひとつだけ智慧を授けても良い。何か望むことはあるか。」
ナヴァは、咄嗟にこう答えました。
「はい。今僕たちの村は、原因不明の伝染病で大人たちが亡くなってしまい、子供しかいません。もとの暮らしを取り戻すために、みんなで協力しようとしているのですが、どうにも上手くいきません。最近は、毎日のように喧嘩ばかりで途方に暮れています。何か解決する方法を教えてもらいたいのです。」
その龍は、すべてを見透かすような瞳でナヴァをじっくり見据えたあと、答えました。
「わかった、教えよう。今からそなたに様々な考えを伝える。その中で、そなたの心に叶う考えをひとつ持って帰るがよい。」
すると、その龍を包むように九つの色で彩られた風が渦を巻き始めました。
そして、その風が天高く昇っていったかと思うと、目の前には、透明な龍が立っていました。
- text / photo HAS
Reference :
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「ナルシス」
- 著者:
- ジャン=ルイ・ガイユマン
- 監修:
- 千足伸行
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text / photo :HAS
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[ 序章 ]さざなみの記憶と滋賀の祈り -
[ 前編 ]水と祈りの記憶を辿る -
[ 中編 ] 2022.10.22公開予定遥かなる祈りへの旅路 -
[ 後編 ] 2022.10.21公開予定途方もない祈りの言葉 -
[ 最終編 ] 2022.10.29公開予定山水の記憶に導かれて