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2025.10.15
[ 後編 ]

Nava ナヴァ
創造と調和を巡る物語

Prayer of
Shiga
Prayer of Shiga
後編
Prayer of
Shiga
私たちは一人として生まれ、無数の出会いを重ねながら、いつかは新たな世界へと旅立ってゆく。
出会いは、まるで不思議な魔法のよう。
誰かとの出会いが一人では辿り着けなかった場所へと導いてくれる。

「Nava ナヴァ」と名付けたこの物語は、幾つかの本とひらめきをたよりに新たな時代の協働の地図を描く試みです。
この物語が語りかけるのは、一人一人の創造性を解き放つ協働の姿。
共に歩むことが創造の光を育み、やがて調和の光として私たちの星を美しい光で包んでゆく、そんな世界を想い描きました。

この物語は、HAS Magazineが構想する協働の指針「Nava」の世界観を描くために生まれました。
本編に加えて、こちらのページの手引書を併せてお読み頂けますと幸いです。

前編「虹色の記憶」では、遥かな銀河の彼方に浮かぶ、ある星に暮らす少年の物語を辿ってゆきます。
後編
星々の物語
Light of
Creation
Prayer of
Shiga

水の精の響き

白色の龍は、澄み切った水のような美しい声で話し始めました。

「こんにちは、ナヴァ。懐かしい瞳。あなたのずっと昔のご先祖さまのターラのことは、子供の頃から知っていました。私の大好きな美しい湖の側に彼は住んでいて、いつも元気いっぱいに遊んでいました。その湖のように澄み切った心の持ち主でした。こうして時を越えて、子孫のあなたとお話し出来ることが本当に嬉しい。」

ナヴァは、まるで自分が褒められたかのように、誇らしい気持ちになりました。

「ありがとうございます。僕もお話出来て嬉しいです。えっと…」

白色の龍は、にこっと笑いながら答えました。
「メルディール。それが私の名前です。最後のお話は別の姿で話した方が良いかもしれませんね。私のもうひとつの姿…。」

そう話すと、真っ白い光が天井から降り注ぎ、ナヴァの前に白い光の柱が見えたかと思うと、その光は少しずつ細くなり、ふっと消えました。
するとさっきまで白色の龍がいた場所に、真っ白な衣をまとった麗しい女性が立っていました。
その衣は、無垢な光をとかしたような衣が幾重にも重ね織られていました。
ナヴァは、あまりの驚きと美しさに目をまんまるに開いて見とれていました。

「ふふふ、さぞ驚いたことでしょう。これが私のもうひとつの姿、水の精メルディールです。私は青き星の水を司る精霊でもあるのです。
それでは、最後に大切なお話しをお伝えしましょう。創造の源、ソースについてのお話しを。」

ナヴァは、メルディールの瞳をじっと見つめ、静かに頷きました。

「ソースの力を解き放つためには、3つのことをしっかりと理解しなければなりません。それはソースの誕生・成長・継承についての理解です。
生命が誕生し、育ち、次の命を繋げてゆくように、ソースも円のように循環を続けます。そのひとつひとつの営みを深く理解することが大切なのです。豊かな作物を収穫するために、優れた農家が自然の営みを深く理解しているように。」

誕生を巡るストーリー

「それではまずは、ソースの誕生のお話から始めましょう。ナヴァ、あなたは詩や絵を描くことが好きだと話してくれましたね。いつもどんな風に作りたいイメージが浮かぶのですか?」

ナヴァは、目を瞑りながら、ゆっくりと自分の心に耳を澄まして答えました。

「はい。言葉にするのが少し難しいですが、何も考えずに頭を空っぽにしている時にひらめくことが多いような気がします。でも、その時はまだぼんやりとしたイメージです。まるで雲の間に滲む月の光みたいに。
それから手を動かしたり、何度も考え直していると、少しづつイメージがはっきりしてきます。」

「そのイメージはどこからやってくるように感じますか?」

「僕の心の中にあるのに、どこか遠い場所にあるような、そんな不思議な感覚です。」

メルディールは、頷きながら優しい微笑みを浮かべました。

「そうですね。そう感じるのには理由があるのです。
そのイメージは、あるひとつの場所からあなたの心の中に届けられているのです。
その理由は、宇宙に広がる星々の物語の中に隠されています。
それでは、その物語をお見せしましょう。」

そう言うと、メルディールはナヴァの手を取って、彼の瞳を見つめました。
メルディールの澄み切った瞳に吸い込まれそうになったかと思うと、目の前から彼女の姿は消え、周囲が突然真っ暗な闇に包まれました。
すると、天上から響くようにメルディールの澄み切った声が聞こえてきました。

「目の前に広がるのは、まだ何もない宇宙のはじまりの景色。私たちの物語はここから始まったのです。今からあなたの心に直接語りかけます。心を澄まして聞いて下さい。」

すると今度は、ナヴァの目の前が真っ白な光に包まれました。
しばらくすると目の前には宇宙の創生のヴィジョンが広がり、彼女の声が響き始めました。

星々の物語

私たちの宇宙が誕生したのは、今から遡ること約138億年前のこと。
宇宙に最初の星が生まれたのは、その数億年後。
それから幾億年もの時をかけ、幾つもの星が生まれては消えてゆきました。

ひとつの星が終わりを迎える時、凄まじい爆発とともに星のかけらが宇宙に散りばめられます。
やがてまた散りばめられた星々のかけらが集まり、また新たな星が生まれます。
それは果てしなく繰り返される星々の物語。

そんな幾重にも連なる物語のひとつとして、約46億前に私が守る青き星、地球もまた誕生しました。
そう、あなたの先祖のターラがかつて暮らした星です。
もちろん、ナヴァの暮らす、シュクラールもそんな星々の物語のひとつとして誕生したのです。

それから私の星では、誕生から数億年もの時を経て、生命の源である水が生まれ、多様な生命が育まれてゆきました。
そして、あなた達のルーツでもある、最初の人類が誕生したのは数十万年前のこと。
無窮の時を越え、遥かな宇宙を旅して来た無数の星々のかけらから、あなた達は生まれたのです。

その事実は、私たちに大切なことを教えてくれます。
遥かな宇宙の始まりから紡がれゆく、終わりのない物語の中に私たちの今があるということ。
そして、この宇宙に広がるすべてのものに、ひとつとして繋がり合わないものはないということを。

水や土、風や石、動物や植物。この宇宙に存在するありとあらゆるもの。
遥か宇宙の彼方で輝く星々さえも。
その起源を辿ってゆくと、そのすべてがどこかで繋がっているのだと。
それは一人一人の心の働き、つまり意識でさえも。

心までもがすべてひとつに繋がってるだなんて、不思議に思うかもしれませんね。
でも、ナヴァと私。私と地球。地球とターラ。ターラとシュクラール。シュクラールとナヴァ。それぞれは時空を越えて、すべてはひとつなのです。

そして、わずかな沈黙が流れたかと思うと、目の前にはメルディールが立っていました。

「さぁナヴァ、右の手の平を左胸に持って来て目を閉じて下さい。そして、呼吸を落ち着かせ、あなたの心に深く耳を澄ますのです。」

ナヴァは、ゆっくりと目を閉じ、心に耳を澄ませ始めました。
するとまた彼女の声が響き始めました。

意識への道

あなたが日常の中で働かせているのは、個人についての意識。
その意識を通して、ナヴァという個性が育まれます。
ここには、いつでも思い返すことの出来る様々な経験や記憶、感情があります。

しかし、それは意識全体の表層に現れる山の頂のようなもの。
その下には、膨大に広がる無意識の世界が眠っているのです。
ですが、多くの人は、自らの心の世界は、そんな表層の意識がすべてだと思っています。

けれども、星々が辿って来た物語を遡ってゆくと気付くはずです。
それは、ひとつの表れなのだと。
なぜならあなた達は、一人の個人であると同時に、共同体の一部であり、人類の一部であり、生命体の一部であり、宇宙の一部であるのだから。
それはつまり、個人の意識の下には、いくつもの意識の層があるということ。

まず一人一人の意識の下には、それぞれの個人の無意識があります。
そこには、これまで積み重ねて来た様々な経験や記憶、感情が宿っています。
忘れてしまった記憶も失われることなく、その中に息づいているのです。
この意識の働きは、一人一人の価値観を生み出す源泉となり、気付かぬ内に一人一人の判断に影響を与えます。

そして、その下には、民族や国籍、信仰、社会組織など所属する様々な共同体の意識があります。
そこには、集団の共通の記憶、感情や経験が宿っています。
この意識は、集団の価値観を生み出す源泉となり、言葉や規則を作り出し、共同体の一員の行動や判断に影響を与えます。

さらに、その下にあるのは、人種や国籍を越えた人類としての共通の意識。
そこには、人類の誕生から連綿と紡がれて来た共通の意識が宿っています。
この意識は、人類全体としての共通の価値観を生み出す源泉となります。
創世の神話が形を変えながらも、どこか共通の物語を持っているのは、この意識が働いているからなのです。

そして、その下には、動物や植物、無生物をも含めた、生命体としての意識があります。
そこには、生命の誕生から終わりなく紡がれて来た生命の意識が宿っています。
この意識は、生命全体の切れ目のない繋がりを生み出す源泉となり、めぐりゆく生命の営みを支えています。

そして、深層に存在するのは、宇宙の始まりから無窮の時を越え紡がれてきた遥かな意識。
そこには、かつて星々のかけらとして何億光年もの時を旅して来た遥かな記憶や、今なお広がり続ける途方もない宇宙の記憶が流れています。
この意識は、数多の星々を作り出す源泉となり、めぐりゆく宇宙の営みを司っているのです。

下の階層に降りるほど、それぞれの意識の領域は少しづつ広がり、最も深層にある宇宙の意識は、あらゆるものを包み込む大きさをもっています。
それはつまり、意識もまた根底ではひとつの繋がりを持っているということ。

そして、その事実を知っているのは、私たちのような存在だけではありません。
古の時代から様々な人々が、そんな遥かな意識の世界に触れて来たのです。
ある人は時を忘れるほどの思索の果てに、ある人は我を忘れるほどの創作の果てに、ある人は無垢な信仰心に支えられた祈りの果てに。
そして、彼らは、そんな意識の世界を様々な言葉で表現しました。

それぞれの言葉

例えばそれは、無垢な光、ひとつの心、静かな湖、秘めた宝といった言葉として。
また時に、詩人はその世界を一編の詩にしたためました。

一粒の砂の中に世界を見、一輪の花に天国を見る。
手のひらに無限を握り、一瞬のうちに永遠をつかめ。
(ウィリアム・ブレイク「無垢の予兆」)

そして、ある古の哲学者は、その世界をこう語りました。

あちらでは、すべてが透明で、暗い翳はどこにもなく、遮るものは何一つない。
あらゆるものが互いに底の底まですっかり透き通しだ。
光が光を貫流する。
ひとつ一つのものが、どれも己れの内部に一切のものを包蔵しており、同時に一切のものを、他者のひとつ一つの中に見る。
(プロティノス「エンネアデス」より)

そしてまた、ある古代中国の禅僧は、こう語りました。

全宇宙はただ一つの心。
存在するものは、ことごとく、ただ一つの識。
全てはただ識のみであり、あらゆるものは一つの心である故にこそ
(法眼文益「三界唯心」より意訳)

そして、不思議なことに、彼らが紡いだ言葉には、どれも共通した世界観が流れています。
静かさや透明さを感じさせる無垢な世界観。
そして、すべてはひとつであるということです。
それはまさに、彼らが表現の方法は違えど、同じ世界を見ていたということ。

でも、こうした世界は、限られた人だけが触れられる世界だと思うかもしれませんね。
しかし、あなた達は言葉に出来ずとも、誰もが様々な意識の扉を開けているのです。

例えば、旅先で異国のメロディーに不思議な懐かしさを抱くこと。
川のせせらぎや波の音、森のささやきに心が落ち着き、癒されてゆくこと。
夜空に広がる星々を眺めていると不思議と心が落ち着くこと。

きっと誰もがこんな感覚を抱いたことがあるはずです。
こうした心の働きは、誰かに教えられたわけでも、自ら学んだことでもありません。
ただ不思議と心の奥底から湧き上がってくるもの。
そんな心の動きの中に、一人一人の心の奥底に眠る、遥かな意識との繋がりが現れているのです。

星々の物語を紐解き、こうして意識の世界を見つめてゆくと、人々が本当の意味で所有出来るものなど何ひとつないということが分かります。
なぜなら形のあるものだけでなく、形のないものも、すべてはひとつに繋がっているのですから。
あなたのものは、他の誰かのものでもあり、その逆もまた同じなのです。
それはナヴァだけでなく、私もまたそうなのですよ。

「ソース」が心の中に現れる時、ぼんやりとしたイメージで現れるのは、深層にある遥かな意識からあなたの心の中に「ソース」が注がれているからなのです。
大いなる意識の導きの中で、心の中に宿ったもの。
この事実は、「ソース」もまた決して誰かのものではないということを教えてくれます。

これが「ソース」の誕生の物語です。
もちろん、すぐには理解出来ないかもしれませんね。
でも、この物語を通して「すべてはひとつである」ということを心の片隅に置くことが大切なのです。
その意識を通して、「ソース」に向き合うことこそが「ソース」に宿る創造の光を大きく育んでゆく力になるのです。

ふと気がつくと、目の前にはメルディールが立っていました。

「ナヴァ、慣れない話に少し疲れたかもしれませんね。でも、あなたなら大丈夫。必ず理解出来ます。時間をかけて何度も私の話を思い出して下さい。
それでは、少し休憩をしてから次の話をしましょう。もう一度ゆっくり目を瞑って下さい。」

メルディールがそう語ると、ナヴァの耳には優しい水のせせらぎが響き始め、不思議と心がほぐれていきました。

Reference :

  • 「ナルシス」
    著者:
    ジャン=ルイ・ガイユマン
    監修:
    千足伸行
Category :
  • text / photo :
    HAS
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