創造と調和を巡る物語
創造と調和を巡る物語
Shiga

Shiga
出会いは、まるで不思議な魔法のよう。
誰かとの出会いが一人では辿り着けなかった場所へと導いてくれる。
「Nava ナヴァ」と名付けたこの物語は、幾つかの本とひらめきをたよりに新たな時代の協働の地図を描く試みです。
この物語が語りかけるのは、一人一人の創造性を解き放つ協働の姿。
共に歩むことが創造の光を育み、やがて調和の光として私たちの星を美しい光で包んでゆく、そんな世界を想い描きました。
この物語は、HAS Magazineが構想する協働の指針「Nava」の世界観を描くために生まれました。
本編に加えて、こちらのページの手引書を併せてお読み頂けますと幸いです。
前編「虹色の記憶」では、遥かな銀河の彼方に浮かぶ、ある星に暮らす少年の物語を辿ってゆきます。
- text / photo HAS
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[ 序章 ]さざなみの記憶と滋賀の祈り
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[ 前編 ]水と祈りの記憶を辿る
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[ 中編 ] 2022.10.22公開予定遥かなる祈りへの旅路
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[ 後編 ] 2022.10.21公開予定途方もない祈りの言葉
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[ 最終編 ] 2022.10.29公開予定山水の記憶に導かれて
Creation
Shiga

朧げな光
水のせせらぎの音が消えたかと思うと、まぶたの奥から真っ白な光が広がり、その光の中からメルディールが現れました。
「ナヴァ、少し休めたようですね。安心しました。
それでは、これからソースを育むために大切な心構えをお伝えします。
ソースを育むためには、開かなければならない3つの扉があります。
それは、一歩を踏み出すための最初の扉、知識と経験を得るための外の世界への扉、思索を深めるための内なる世界への扉です。
そして、それぞれの扉を開く鍵が先ほどお話したソースの誕生の物語の中に隠されているのです。
その物語は、すべてはひとつであることを教えてくれましたね。
その教えこそが大切な気付きを与えてくれるのです。
それは、私という意識を手放すことの大切さです。
すべてがひとつであるならば、本来こだわるべき私というものは存在しません。
一人一人が大きな調和の一部の中にいるのですから。
しかし、多くの人々は、私という意識にこだわるあまり、歩むべき道を見失ってしまうのです。
それでは私と一緒に、それぞれの扉を開けてゆきましょう。
さぁナヴァ、もう一度目を閉じて、心に耳を澄まして下さい。」

ナヴァは、ゆっくりと目を閉じ、心に耳を澄ませ始めました。
するとまた彼女の声が響き始めました。
まずは、最初の扉を開けるためのお話をしましょう。
「創造の源=ソース」が、朧げな輪郭を持って心の中に現れる時、それはまだ兆しに過ぎません。
その兆しを創造の種にするために必要なのは、最初の一歩を踏み出すこと。
どんな独創的な「ソース」もその一歩を踏み出さなければ、形になることはありません。
ですが、それは決して簡単なことではありません。
なぜなら、その「ソース」が不確かなものであるほど、誰もがその一歩を踏み出すことに躊躇してしまうのです。
誰かが歩んだ道を踏み歩くのは難しくありません。
しかし、その逆は決して容易ではないのです。
そこには、恐れがあります。
失敗への恐れ、そして失敗によって社会的な何かを失ってしまうのではないかという恐れです。
安定した立場にいる私、多くの称賛を集める私、仲間に恵まれている私。
今の「私」を作り上げているものが失敗によって失われてしまう恐れ。
しかし、心の中に宿った「ソース」が本当の光を放っているのなら、一時的に目を背けてしまったとしても、何年、何十年経ったとしてもその光は決して消えることはありません。
ふとした時に、心の奥底で朧げな光が灯っていることを感じます。
ですが、本当は誰もが直感的には理解しているのです。
その光こそが自らを導く光であると。

けれども、その光に向き合うことなく、一生を終える人も少なくありません。
これまで数限りない「ソース」が光を放つことなく消えていったのです。
もし、そのひとつひとつの「ソース」が本来の光を放っていたのなら、世界は、宇宙は、途方もない美しさに包まれていたことでしょう。
だからこそ知って欲しいのです。
「私」を手放す大切さを。
すべてはひとつであるのなら、その一歩は必ず「私」を越えた調和の光となり、多くの生命・宇宙を灯す光となるのです。
最初の一歩を踏み出す時に、自らの心に語りかけて下さい。
その「ソース」は、他の誰かとの比較ではなく、あなた自身の喜びに包まれているものであるか。
そして、分断ではなく、生命・宇宙全体に調和をもたらす可能性を秘めているものであるか。
しかし、それは決して踏み出す一歩の大小を問うものではありません。
どんなに小さな一歩だとしても、その一歩は必ず宇宙全体を満たす光になるのです。
それらの問いに、はいと答えられるのなら、宇宙の遥かな繋がりに身を委ねて、一歩を踏み出して下さい。
そうして、勇気を持って一歩を踏み出した時、あなただけの物語が紡がれてゆくのです。

二つの扉
そうして最初の扉を開けることで、「ソース」は創造の種としてあなたの心の中に宿ります。それはとてもかけがえのない一歩となります。
しかし、農作物が種から時間をかけて成長し、初めて豊かな作物を実らせるように、「ソース」もまた同じ道を辿らなければなりません。
豊かな作物を育むために豊穣な大地と清らかな水が欠かせないように、「ソース」を育むためにも欠かすことの出来ないものが存在するのです。
それは、知識と経験と思索です。
知識は、視野を広げ、多様な考え方を育む力になります。
経験は、行動を通して、知識を生きた知恵へと変化させる力になります。
思索は、思考を重ねることで、知識と経験を深める力になります。
つまり、知識と経験は、「ソース」が根付く大地であり、思索は「ソース」を育む水なのです。
そのどれかが欠けてしまうと「ソース」は、創造的な生命を失ってしまいます。
だからこそ、知識と経験を得るための「外の世界への扉」と思索を深めるための「内なる世界への扉」を開く鍵を知ることが大切なのです。
外の世界への扉を開く鍵は、謙虚な姿勢の中にあります。
謙虚さとは、「私」を手放し、相手を尊重し、受け入れてゆく姿勢のこと。
知識も経験も、様々な出会いによって、あなたの外側からもたらされるものです。
豊かな知識や経験は、相手を尊重し、謙虚な態度で向き合った時にのみ得ることが出来るのです。
もし、あなたが傲慢な態度で相手を見下したのなら、相手は大切なことを決して伝えてはくれません。
つまり、それは「ソース」が根付く大地の豊かさを失ってしまうということ。
枯れた大地が実り豊かな「ソース」を育むことは出来ません。

そして、もう一方の内なる世界への扉を開く鍵は、内観という行為の中にあります。
内観とは自らの心を客観的に見つめ、様々な感情や記憶を捉え、理解すること。
これは「私」という意識から離れ、まるでもう一人の自分が「私」を見つめるように分析することです。
内観を重ねることで、心の中が整理され、過去の記憶や感情のわだかまりが解けてゆき、少しづつ心が澄んでゆきます。
澄み切った心は、調和の取れた思考を生み、知識と経験をより豊かなものへと深める力になります。
しかし、もしあなたが「私」という意識に溺れ、客観的に自分を見つめなければ、様々な感情の波に常に心は揺り動かされ、濁流のように心は濁ってしまいます。
そんな濁った心を通して、正確な判断や思考を働かせることは出来ません。
つまり、それは「ソース」を育む清らかな水を失ってしまうということ。
濁った水では実り豊かな「ソース」を育むことは出来ないのです。
外の世界への扉と内なる世界への扉。
それぞれの扉を開く鍵もまた「私」を手放すことの中にあるのです。
「私」を手放し、世界と向き合うことが、豊かな大地と清らかな水をあなたの心の中にもたらしてくれます。
そうして、それぞれの扉を開ける鍵を理解し、様々な出会いを重ね、思索を重ねることで、「ソース」は少しづつ育ってゆきます。
歩みを重ねるたびに、朧げな光は少しづつ確かな輪郭を帯びてゆきます。
やがて、その光が心を満たす時、自分自身の本当の姿に出会うのです。
それはまさに、一人一人の心の奥底にある、それぞれの光に出会う旅。
時代や国籍、人種を問わず、そんな軌跡を辿りながら「ソース」は紡がれてゆくのです。

終わりのない創造
ナヴァは、メルディールの話に耳を傾けながら、自らの心の中が少しづつ穏やかな光に満たされつつあることを感じていました。
すると目の前には穏やかな笑みを浮かべた、メルディールが立っていました。
「ナヴァ、ずいぶんと長い時間お話を聞いてくれましたね。
あなたには、他の誰よりも人の想いに耳を傾ける力があります。
その力は、自らのソースだけでなく、他の誰かのソースを育む力になります。
とても素晴らしい才能です。これからもずっと大切にして下さいね。
それでは最後のお話をします。
最後のお話は、ソースの継承についてのお話です。
朧げな光から創造の種となり、大きく実ったソースは、どのようにして受け継がれてゆくのかを。
その繋がりを知ることがソースの持つ遥かな可能性を引き出す力になるのです。
さぁナヴァ、最後にもう一度目を閉じて、心に耳を澄まして下さい。」
ナヴァは、改めてゆっくりと目を閉じ、心に耳を澄ませ始めました。
するとまた彼女の声が響き始めました。
遥かな宇宙の意識から放たれた創造の光がそれぞれの心に宿り、一人一人の人生を通して育まれてゆく、そんな「ソース」の誕生と成長の軌跡について、お話して来ました。
「ソース」は、あなた自身の肉体が存在する限り、あなたの心の中で成長を続けます。そこには年齢による制限はありません。
幾つになったとしても、あなた自身の心が前向いている限り、成長を止めることはないのです。
ですが、形あるものはすべていつかは終わりを迎えます。
肉体は滅び、やがて土に帰ってゆきます。
それは人間だけでなく、動物や植物、無生物すらも同じ運命を辿るのです。
しかし、それは決して悲しむべきことではありません。
死は常に新たな生への芽吹きなのです。
木々が春に芽吹き、夏に大いなる実りをもたらし、秋に葉が色付き、冬に枯れゆくことで、落ち葉は豊かな土壌を生み、森に新たな命をもたらすように。
そして、形のない「ソース」もまた大いなる循環を重ねてゆくのです。

遥かなる循環
ナヴァ、あなた自身の「ソース」もまたその大いなる循環に生かされているのです。思い出して下さい。あなたの本棚にある様々な著者のことを。
彼らの多くは、もうこの世には存在しません。
ですが、彼らの残した「ソース」は、今も確かに存在し続け、手にした人に新たなインスピレーションを与え続けています。
そして、そんな彼らが生み出した「ソース」の中には、彼ら自身の想いだけでなく、その歩みを支えた様々な人々の想いや生命の営みが流れています。
ひとつの「ソース」の中に、無数の生命の記憶があるのです。
それはつまり、あなた自身の「ソース」は、時空を越えて紡がれて来た数えきれない生命に支えられているということ。
この事実は、大切なことを気付かせてくれます。
それは肉体も意識も、「ソース」でさえも、あらゆる繋がりによって生かされているということを。
あなた自身もいつかは、その大いなる循環の中に統合されてゆくのだと。
宇宙に存在するあらゆるものが、遥かな循環の中で大いなる創造を続けているということを。
遥かなひとつの意識から注がれた光は、一人一人の心を通して育まれ、またやがて大いなるひとつの意識へと統合されてゆきます。
そして、それぞれの光は、また新たな「ソース」を育む創造の光として紡がれてゆきます。
それは終わりのない創造の物語なのです。
生きるということは、そうした遥かな物語の一部として命の光を輝かせるということ。無窮に広がる宇宙の極小の存在として。
しかし、それは決してひとつひとつの生命を軽んじるという意味ではありません。
あらゆる生命は極小でありながら、極大の宇宙と繋がり合う存在なのです。
なぜなら、星々の物語が教えてくれたように、すべてはひとつであるのですから。
だからこそ、遥かな繋がりに生かされているという謙虚な想いと感謝を忘れないで下さい。
そして同時に、一人一人の歩みが大いなる宇宙の創造に寄与しているという無限の可能性と大きな責任も。
一人一人がそんな遥かな宇宙との繋がりを意識出来たのなら、世界は、宇宙は、大いなる輝きに包まれてゆくのです。

最後の話
メルディールの声が途切れ、少しの間沈黙が流れると、ナヴァの目の前にはメルディールが立っていました。
「ナヴァ、これで全てのお話を伝え終えました。
最後まで聞いてくれて、ありがとうございます。
ソースは、手にした人に様々な力を与えてくれます。
一人一人の人生を切り開く力にも、時に誰かの心を灯す力にも。
その力は、自分という存在を越えた大きな力とも言えるかもしれません。
だからこそ、使い方を誤れば、自らを焼き尽くす炎となり、ソースの力を消し去ってしまいます。
傲慢さは孤立を生み、誰かへの嫉妬や劣等感は新たな歩みを止めてしまいます。
そんな感情を抱いた時、一歩立ち止まって、自らの心の奥底に眠る遥かな星々の物語に耳を傾けてみて下さい。
無垢な光に包まれたその物語は、あらゆるものとの繋がりを静かに語りかけてくれます。
でも、ナヴァ、あなたなら大丈夫。
その心に秘めた創造の光を解き放つことが出来ると信じています。」
メルディールは、そう柔らかな表情で語りかけると、ふと空を見上げました。
すると虹色の雲が夕暮れで淡く染まり始めていました。
「私を呼んだ魔法の時間がそろそろ終わりそうですね。もう少しで私の星に帰らなければなりません。ナヴァ、最後に何か私に聞きたいことはありますか?」
ナヴァは、目を瞑って少し考えた後、話し始めました。
「メルディール、ありがとうございます。
とても大切な物語に出会うことが出来て、これから新たな道へと進めそうな気がしています。
今日のお話を何度も思い出しながら、みんなで手を取り合いながら少しづつ歩んでゆきたいと思います。
それでは、ひとつだけ教えて下さい。
すべてはひとつであるのなら、亡くなった父と母の想いも、消えることなく今もあるということでしょうか?」

メルディールは、穏やかな笑みを湛えながら答えました。
「もちろんです。肉体はなくなっても共鳴する力を持った想いは消えることはありません。
あなたの心の中でいつまでも、お父さんとお母さんの想いは生き続けています。
誰かを愛する無償の想いは、最も尊いものです。
彼らは、いつでもあなたのすぐ側にいるのです。
それに、私もまたずっとあなたの心の中にいることも忘れないで下さいね。
またいつかあなたが光となった時、あなたを迎えにゆきます。
どうか安心して、あなたの信じる道をまっすぐに歩んで下さい。」
メルディールは、そう話しかけるとナヴァの両手を優しく握りました。
そして、彼女の姿が少しつづ薄くなったかと思うと、虹色の雲が彼女の周りを包み、天まで届くような雲の柱となりました。
その雲の柱は虹色の龍の姿となり、天高く飛び去ってしまいました。
ナヴァは、その光景をただただ立ち尽くしながら見つめていました。
すると突然の強い睡魔に襲われたかと思うと、その場で眠ってしまいました。
それから、どれだけの時間が経ったのでしょうか、ふと目を覚ますと父の書斎で開き掛けの本を手に眠っていたことに気が付きました。
窓に目をやると、朝の光がカーテンに反射して虹色の光を放っていました。
夢か幻か、不思議な感覚を抱きながらも、なぜか両手にはメルディールの手の温もりが残されているような気がしました。
込み上げてくる想いが一粒の涙となり、その本を濡らしました。
- text / photo HAS
Reference :
-
「ナルシス」
- 著者:
- ジャン=ルイ・ガイユマン
- 監修:
- 千足伸行
-
text / photo :HAS
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